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津地方裁判所伊勢支部 昭和55年(ワ)25号 判決

主文

一  被告村田正昭は原告に対し、金四三八万三、六一三円及び内金四〇三万三、六一三円に対する昭和五五年四月一九日以降、内金三五万〇、〇〇〇円に対するこの判決確定の日の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告の被告村田正昭に対するその余の請求及び被告三重近鉄通運株式会社に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告村田正昭との間においては、同被告に生じた費用の三分の二を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告三重近鉄通運株式会社との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して、金一、三三九万七、九五五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生と原告の受傷

(一) 本件事故

(1) 日時 昭和五二年五月二四日午前一一時頃

(2) 場所 三重県度会郡小俣湯田一〇五二番地先路上

(3) 態様 原告が第一種原動機付自転車(以下原告車という)を運転して、右路上を北から南に向つて進行中、折から対向して進行してきた被告村田運転の普通乗用自動車(以下被告車という)と衝突。

(二) 原告の受傷の部位・程度と後遺障害

(1) 原告は、本件事故により、右大腿骨骨折、右大腿骨骨幹部骨折の傷害を負い、伊勢慶応病院において次のとおり加療を要した。

(イ) 入院 合計一八五日間

自昭和五二年五月二四日至同年一一月八日}(一六九日間)

自昭和五三年六月五日至同月二〇日}(一六日間)

(ロ) 通院 延べ三〇五日間(内実通院日数四七日間)

自昭和五二年一一月九日至昭和五三年九月二五日}但し、前記(ロ)の入院期間一六日間を除く

(2) 後遺障害

原告の前記傷害治療は、昭和五三年九月に症状が固定するに至つたが、その結果右大腿二・五センチメートル短縮の後遺障害が残り、右障害の程度は、自賠法施行令別表等級表の一一級に該当する。

2  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故によつて原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(一) 被告村田は、本件事故当時前記普通乗用自動車を所有し、自己のため運行の用に供していた者であるから自賠法三条による責任。

(二) 被告三重近鉄通運株式会社(以下被告会社という)は、本件事故当時被告村田を雇用していた者であるが、被告村田は、被告車を運転して、被告会社への出勤途上本件事故現場に差しかかり、同所は幅員約四メートルの道路が前方で右方にカーブしていて進路の見通しが十分でなかつたから、前方注視を厳にするとともにできる限り道路左側に寄つて徐行し、もつて対向車との衝突事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約五〇キロメートルで道路中央よりやや右側に寄つて進行した過失により、折から右前方より対向して進行してきた原告車と衝突して本件事故を発生させた。よつて、民法七一五条一項による責任。

3  損害

原告は、本件事故により次のとおり損害を被つた。

(一) 治療費 金三五七万一、二七五円

(二) 付添看護費 金二二万二、五〇〇円

原告は、前記入院期間中少なくとも八九日間付添看護を要し、その間原告の妻と母が交替で付き添つたので、右付添看護費として一日金二、五〇〇円の割合による右八九日分。

(三) 子守代 金五万〇、〇〇〇円

原告には、本件事故当時三歳と二歳の男児がいたところ、原告の妻或いは母が前記のとおり原告の付添看護に従事中、右二児の子守として雇い入れた吉田時子に対し支払つた子守代。

(四) 入院諸雑費 金一一万一、〇〇〇円

原告が前記入院中(合計一八五日間)必要とした一日金六〇〇円の割合による諸雑費。

(五) 通院交通費 金三万八、四二〇円

原告は、前記伊勢慶応病院への通院期間中、少なくとも昭和五二年一一月九日から同年一二月一七日までは歩行が困難であつたので、タクシーを利用したり、知人である山本武に依頼して自家用車に乗せて貰つたりして通院したが、そのタクシー代として合計金一万八、九二〇円、山本武への謝礼として合計金一万九、五〇〇円、以上合計金三万八、四二〇円の出費を要した。

(六) 足底板装具代 金三六万三、八二一円

原告は、前記のとおり右大腿二・五センチメートル短縮の後遺障害を有することとなつた結果、これによる歩行障害を補強するため、生涯足底板装具を装着しなければならなくなつた。右装具の代金は一着分金一万三、六〇〇円であるが、耐用月数が一〇か月であるため、原告の前記症状固定時における推定余命年数四二年間中一〇か月毎にこれを交換せねばならず、その間交換に必要な右装具代金総額の現価を求めると、右一〇か月分金一万三、六〇〇円を一年分に換算すれば金一万六、三二〇円となるから、この四二年分をホフマン式(年別複式―以下同じ)計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除して算出すれば、次の計算式のとおり合計金三六万三、八二一円となる。

16,320円×22.293(ホフマン係数)=363,821円

(七) 通勤交通費 金四万〇、〇〇〇円

原告は、本件事故当時松阪市内のセントラル硝子株式会社松阪工場(以下「セントラル硝子」と略称する)に勤務しており、本件事故による欠勤後、昭和五二年一一月二一日から同工場に出勤するようになつたが、少なくとも同年一二月二〇日までは前記後遺症による歩行障害のため単独での通勤が不可能あるいは著しく困難であつたので、同僚の森本忠一、岩井勇らに依頼して、同人らの自家用車で送迎してもらつた。その謝礼として、森本忠一に対し金三万五、〇〇〇円、岩井勇に対し金五、〇〇〇円、合計金四万〇、〇〇〇円を支払つた。

(八) 傷害 治療のための休業損害 金七六万九、六〇三円

(1) 給料減収分(金五六万六、四九六円)

原告は、前記セントラル硝子に勤務していて、本件事故前三か月間の給料は社会保険料・所得税を差し引いてなお合計金六六万二、六二六円を下廻らなかつたところ、右期間中原告が稼働したのは六五・五日間であつたから、右三か月分給料合計金を右稼働日数で割ると、本件事故当時原告の一日あたり平均収入は、金一万〇、一一六円を下廻らない金額となる。

原告は、本件事故のため、昭和五二年五月二四日から同年一一月二〇日まで右職場を欠勤したが、その間有給休暇も利用したため、実質上の欠勤日数は五六日間となり、その間給料の支給を受けられなかつた。

よつて、右欠勤による休業損害は、金五六万六、四九六円となる(10,116円×56(日)=566,496円)。

(2) 賞与減額分(金二〇万三、一〇七円)

原告は、本件事故による前記欠勤がなければ、昭和五二年一二月に前記職場から金四六万七、八七一円の賞与の支給を受ける筈であつたが、前記欠勤のため、金二六万四、七六四円しか支給されなかつた。よつてその差額分金二〇万三、一〇七円の損害を被つた。

(九) 足底板装具交換のための休業損害 金七二万五、三一七円

原告は、将来とも前記足底板装具交換のためにはその都度三日間の休業を余儀なくされるところ、本件事故当時の原告の収益能力は前記のとおり一日あたり金一万〇、一一六円を下廻らないから、三日間では金三万〇、三四八円以上となり、これが向後原告の就労可能年数とみられる三五年間、一〇か月毎に休業損害となつて発生することが予想される。そこで、右一〇か月毎の損害金を一年毎に換算すると金三万六、四一七円となるので、右将来に亘る損害についての事故時における現価総額を、ホフマン式計算法で年五分の割合による中間利息を控除して求めると、次の計算式のとおり金七二万五、三一七円となる。

36,417円×19.917(ホフマン係数)=725,317円

(一〇) 後遺障害による逸失利益 金一、〇五五万八、〇〇一円

算定の根拠は次のとおりであり、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出。

本件事故時原告の収益能力 一か月金二二万〇、八七六円以上

後遺障害等級 一一級

労働能力喪失率 二〇パーセント

将来の稼働可能年数 三五年間

中間利息控除 ホフマン式

(一一) 傷害慰謝料 金一五〇万〇、〇〇〇円

原告が本件事故により前記のとおり受傷して、入・通院加療を余儀なくされ、昭和五三年九月症状が固定するに至るまでの間被つた肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料相当額は右金額を下らない。

(一二) 後遺障害慰謝料 金一五〇万〇、〇〇〇円

原告が前記後遺障害により被るべき精神的苦痛に対する慰謝料相当額は右金額を下らない。

(一三) 物損 金四万二、〇〇〇円

(1) 本件事故により損壊した原告の腕時計買替代金三万七、〇〇〇円

(2) 本件事故により損壊した原告車の修理代金五、〇〇〇円

(一四) 弁護士費用 金六〇万〇、〇〇〇円

原告は、以上の損害金につき被告らが任意の支払に応じないので、止むなく本訴の提起追行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、その手数料及び報酬として合計金六〇万〇、〇〇〇円を支払う約束をしたが、右は本件事故と相当因果関係ある損害である。

以上(一)ないし(一四)の損害金を合計すると、その総額は金二、〇〇九万一、九三七円となる。

4  弁済充当

原告は、すでに被告村田から、本件事故による損害賠償金として、被告車の自動車損害賠償保険金を含め、治療費充当金その他合計金六六九万三、九八二円を受領した。よつてこれを、前記損害合計金二、〇〇九万一、九三七円から差し引くと、その差額は金一、三三九万七、九五五円となる。

5  結論

よつて、原告は被告らに対し、連帯して金一、三三九万七、九五五円及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。

二  請求原因に対する認否

(被告村田正昭)

1 請求原因1の事実のうち、後遺障害の点は争い、その余の事実は認める。

2 同2の(一)の事実は認める。

3 同3の事実は争う。

4 同4の事実のうち、被告村田からの既払金については認める。

5 本件事故の発生について被告村田の過失が否定できないとしても、その程度は極めて軽微であり、他方原告の過失はこれより著しく大きいから、原告の請求については大幅な過失相殺がなされるべきである。

(被告会社)

1 請求原因1の(一)の事実は認める。

2 同2の(二)の主張は争う。

被告村田は、本件事故当時被告会社の本採用従業員ではなく、臨時試傭期間中の者であつたし、また当時被告村田の通勤距離は二キロメートル未満であつたので、被告会社は被告村田が自家用車で出勤することを容認していなかつたから、本件事故につき被告会社が使用者責任を負うことはない。

3 その余の請求原因事実は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の(一)の事実(本件事故の発生)については各当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  請求原因2の(一)の事実は、被告村田との間において争いがない。よつて同被告は、自賠法三条により、本件事故によつて原告に生じた身体傷害に伴う損害につきこれを賠償する責任がある。

2  次に被告会社の責任につき判断するに、被告村田本人尋問の結果並びに成立に争いのない乙第二号証及び被告会社が真正文書として提出した丙第一、第二号証の記載その他弁論の全趣旨によれば、被告村田は、本件事故の約一か月前に被告会社にトラツク運転手として雇用された者であるが、本件事故当時はいわゆる本採用前の試傭期間中の身分であつたこと、そうして、同被告は、自己所有の自家用車である被告車を運転して被告会社に出勤の途次本件事故を起したものであることが認められる。

ところで、民法七一五条に謂う「使用者」とは、被用者との間の使用関係が一時的なものであつてもこれに該当するから、被告村田が右のとおり本採用前の試傭期間中の者であつたとしても、そのことによつては被告会社が同法条による使用者責任を免がれるものではない。しかしながら、同法条による使用者責任は、被用者が使用者の「事業の執行につき」第三者に損害を加えた場合に発生するものであるが、一般に、被用者の自家用車による通勤途上の事故については、右自動車の運行が、単なる被用者側の通勤目的以上に、使用者の業務となんらかの密接な関連を有するなど特段の事情のない限り、単に出勤途上であることのみによつては、直ちに使用者の「事業執行」中の事故とは認められないところ、本件においては、被告車の運行につき右特段の事情を認めるに足る証拠がない。

そうすると、被告会社には、結局本件事故についての使用者責任を負わせることができないので、原告の被告会社に対する本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないものといわなければならない。

三  過失割合

前記争いのない事実と、原告及び被告村田各本人尋問の結果並びに成立に争いのない甲第一九、第二〇号証、乙第一、第二号証に弁論の全趣旨を綜合すると、次の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

1  本件事故現場道路は、事故地点付近から南方に通ずる、アスフアルト舗装された幅員約四メートルの歩車道の区別及び中央線の表示のない平坦な町道(以下本件町道という)で、事故地点から南に向つてはほぼ同一幅員で直線に延びているが、北に向つては事故地点のやや前方から、道路の右側端線が右方にわん曲して、その北側をほぼ東西に通ずる幅員の広い道路(以下東西道路という)に開口する形で接して不整形な交差点を形成しており、また事故地点付近の右(西)がわ路側端には、民家を囲む高さ約一・七メートルのコンクリートブロツク塀が構築されていて、これが右路側端に沿つて事故地点のやや前方(北)付近から右にわん曲しているため、このブロツク塀に沿つて交差点から本件町道に進入してくる車両に対する、本件町道からの見通しを妨げている。そのため本件町道の事故地点左前方にはカーブミラーが設置されているが、尤も本件事故当時は、周辺の竹やぶの笹が生い茂つて、本件町道からの鏡面の視認を困難にしていた。

2  被告村田は、被告車を運転して本件町道を南から北に進行し、前記交差点で左折すべくその手前の事故地点に、時速約二〇ないし三〇キロメートルで差しかかつたところ、右前方約一二メートルの付近に、前記ブロツク塀に沿つて本件町道に進入してくる原告車を発見し、左右に転把することなく直ちに急制動の措置をとつたが、被告車が停止するのとほぼ同時にその右前部に原告車が衝突した。そのときの被告車の進行位置は、被告車の左側には道路側端まで約一・一メートル、右側には道路側端(前記ブロツク塀)まで約一・三メートルの間隔を有している状態であつた。

なお、被告車の右急制動直前の速度については、本件事故現場には、同車の右前輪について約三メートル、左前輪について約四メートルのスリツプ痕が残つていたこと、被告車は前示のとおり急制動によつて停止するのとほぼ同時に原告車と衝突していること等の事実が認められるので、右スリツプ痕の長さから制動初速度を試算してみると、その一般式である次式を用い、路面の摩擦係数にアスフアルト舗装道路の標準値である〇・七をあてはめてみると、右初速度は計算上時速約二三ないし二七キロメートルとなり、被告村田の事故当時の警察官に対する、右初速度が二〇ないし三〇キロメートルであつた旨の供述及び同被告の当法廷における右同様の供述を裏づけることになるので、これらの関係証拠を綜合して、前示のとおり認定した。

〈省略〉

3  一方原告は、原告車を運転して、前記交差点北方の道路から同交差点を経て本件町道に、前記ブロツク塀に沿いつつ同ブロツク塀から約〇・八メートル道路中央に寄つた付近を、左旋回の形で進行して事故現場に差しかかり、右ブロツク塀のわん曲部分を曲り切ろうとした辺りで右前方に被告車を発見し、急制動をかけたところ後輪がスリツプして、本件町道中央部に向つて斜めに進行する形で滑走し、被告車の右前照灯付近に右膝を打ちつける格好で衝突した。

原告車の右制動直前までの速度については、本件事故現場には約二・一メートルの同車のスリツプ痕が残つていた事実が認められるが、しかし同車は、前示のとおり滑走の途中被告車との衝突によつて停止したと認められることと、また右急制動によつて車体の平衡を失いつつ横すべりの状態で滑走して行つたものと推測することもできるので、右のスリツプ痕の長さのみからは直ちにその制動初速度を推定することはできないが、原告並びに被告村田の事故後の警察官に対する各供述内容等に照し、その速度は二〇ないし三〇キロメートル程度であつたと推認し得る。

4  以上本件事故現場付近の道路状況及び原・被告車の衝突前の各進行状況等を綜合勘案するに、被告車においては、原告車を発見する以前になお一層速度を滅じ、自車をより道路左端に寄せて進行すべき注意義務があつたこと、そうして右注意義務を十分に尽さなかつた点に、本件事故発生についての過失を否定することができないが、他方原告においても、見通しの悪い前記ブロツク塀に沿つて、左に旋回しつつ道路幅員の比較的狭い本件町道に進入しようとしていたのであるから、右町道からの対向四輪車に出会うことは十分予測して、これを発見した場合にも自車の平衡を失わないで道路左端に停止できるよう速度を調整し進路を保持して進行すべき注意義務があつたにかかわらずこれを怠り、被告車を発見後前示のとおり自車を却つて道路中央方向に滑走させ衝突するに至らせた重大な過失のあることが認められ、右原告の過失が本件事故及びこれによる損害の発生に寄与していることは明らかである(前示原・被告車の衝突前の進行位置関係からみても―被告車の右側には道路右端まで約一・三メートルの間隔が保たれていたのであるから―原告がもし被告車を発見後、すくなくともそれまでの進路のとおり自車を道路左端から約〇・八メートルの付近に、あるいはそれ以上左寄りに保持したまま、その平衡を失しないで徐行ないしは停止しておれば、被告車との衝突は避け得たものと推測される)。

そこで、本件事故の発生にかかる右両者の過失を対比斟酌すると、被告にはいわゆる強者危険負担の原則による不利益をも加味したうえ、本件事故による損害賠償につき、被告は原告に生じた相当の損害額のうちその五〇パーセントを賠償すべきものと認めるのが相当である。

四  原告の傷害の部位・程度と後遺障害

1  原告が本件事故により右大腿骨骨折、右大腿骨骨幹部骨折の傷害を負い、伊勢慶応病院において原告主張のとおり入・通院治療を受けた事実は被告村田との間で争いがない。

2  そうして、成立に争いのない甲第二号証と調査嘱託の結果及び原告本人尋問の結果によれば、原告の右傷害は、昭和五三年九月二五日頃その症状が固定したが、その結果原告は、右大腿骨の短縮により右下肢が二・五センチメートル短縮し、右股関節・膝関節・足関節等に運動機能障害を生じ、その程度は、自賠法施行令別表等級表一一級に相当すること、そのため原告は爾後生涯に亘つて、右足の運動機能障害を軽減するための足底板装具を装着する必要があること等の事実が認められ、右認定を左右する証拠はない。

五  原告の損害

本件事故により原告には次のとおり損害が生じたことが認められ、この認定を覆えすに足る証拠はない。

1  入・通院治療費 金三五七万一、二七五円

成立に争いのない甲第一号証によれば、原告は前記伊勢慶応病院での入・通院加療のための治療費として、合計金三五七万一、二七五円を要したことが認められる。

2  付添看護費 金二二万二、五〇〇円

(一)  成立に争いのない甲第三号証並びに証人桜本さち子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は前記入院中昭和五二年五月二四日以降少なくとも原告主張の八九日間付添看護を要し、その間原告の妻と母とが交替で付添看護にあたつたことが認められる。そうして右付添看護のために生じた損害は、後記子守代の出費その他の事情を考慮し、一日金二、五〇〇円の割合による合計金二二万二、五〇〇円と認定するのが相当である。

(二)  なお原告は、右付添看護期間中の原告の子供の子守代をも本件事故による損害として主張するが、前記証人の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる甲第六号証の一ないし三によれば、右子守代は、従前から幼稚園の送り迎えを原告の妻の母である吉田時子に依頼していた原告の長男を、右付添期間中は退園後夜間も右時子の許に預けた謝礼として、同人に一日金五〇〇円の割合で支払つたものであることが認められるところ、このような出費は、原告の付添看護費及び入院諸雑費の内に含まれる経費として考慮するのが相当である。

3  入院諸雑費 金一一万一、〇〇〇円

原告が前記入院期間(全一八五日間)中に要した諸雑費は、諸般の事情を考慮し、原告主張のとおり右全期間につき一日金六〇〇円の割合による合計金一一万一、〇〇〇円と認めるのが相当である。

4  通院交通費 金三万八、四二〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第八、第九号証によれば、原告が前記通院のために支出した相当額の交通費として、タクシー利用代金一万八、九二〇円及び知人に自家用車での送迎を依頼した謝礼金一万九、〇〇円の合計金三万八、四二〇円を要したことを認めることができる。

5  足底板装具代 金三六万三、八二一円

原告本人尋問の結果及びこれにより原本の存在及びその成立の真正を認められる甲第七号証によれば、原告は、前記後遺障害による身体機能の欠陥を補強するため、生涯右足に足底板装具を装着する必要が生じ、右装具の代金は一着分金一万三、六〇〇円で、その耐用月数は一〇か月であることが認められる。そうして、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は昭和二一年一一月一七日生れの男子で、右後遺障害の点を除けば通常の健康体の持主であることが認められるので、昭和五三年簡易生命表によれば、前記症状固定時三二歳の原告のその後の余命年数は四二年間と推定される。よつて、原告が右余命年数中交換装着を必要とする足底板装具代金の総額を、ホフマン式(年別複式―以下同)計算法により右期間中年五分の割合による中間利息を控除して、前記症状固定時における現価総額に引き直して求めると、原告主張の計算どおり合計金三六万三、八二一円(円未満切捨)となる。

6  通勤交通費 金四万〇、〇〇〇円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一、二、第一一号証によれば、原告は、本件事故による傷害治療のため欠勤していた松阪市内のセントラル硝子に、昭和五二年一一月二一日から出勤し始めたが、同年一二月二〇日までは前記後遺障害のため未だ単独通勤が困難であつたため、同僚二人の自家用車に便乗させて貫つて通勤したこと、その間右同僚に対する謝礼として合計金四万〇、〇〇〇円を支払つたことが認められ、右の出費は本件事故と相当因果関係あるものと認めることができる。

7  休業損害 金八一万六、三〇七円

前認定の事実に、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一四、第一七号証を併わせると、

(一)  原告は、本件事故当時前記セントラル硝子に勤務していて、事故前三か月間に得た月例給与の合計額は、七一万七、二三六円(社会保険料及び所得税控除前)となること、右期間中の原告の実稼働日数は合計六五・五日であつたこと、したがつて、当時における原告の実働一日当りの平均収入は金一万〇、九五〇円(円未満切捨)となること、そうして、原告は、本件事故による前記傷害治療のため、昭和五二年五月二四日から同年一一月三〇日までの間に、合計五六日間の無給欠勤を余儀なくされたこと等の事実が認められる。

そうすると、原告は、本件事故のため、右実働一日当り平均収入額の右無給欠勤日数分相当額の休業損害を被つたものと推認することができ、その合計額は金六一万三、二〇〇円となる(なお、この金額は、右休業損害に関する原告の主張額を上廻るが、後記のとおり過失相殺の結果、被告村田に賠償を求め得るその最終的相当金額の認容範囲が原告の主張額を超えないことになるので、右の点については民訴法一八六条に抵触しないものと解する)。

(二)  また原告は右無給欠勤のため、昭和五二年一二月に受給すべき賞与につき金二〇万三、一〇七円の減額支給を受けた実実が認められる。

(三)  そこで、右(一)(二)を合わせると、原告の本件事故による休業損害は合計金八一万六、三〇七円となる。

なお原告は、前記足底板装具交換のための将来の欠勤予定日数(一〇か月毎に三日間ずつ)についても、休業損害を生じるものとして主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告の職場であるセントラル硝子においては、右の程度の欠勤日数は、有給休暇(年間二〇日間―一年分繰越可能)によつて賄い得ることが認められるので、これが休業損害として発生することの必然性は認められない。

8  逸失利益 金一、三二九万一、八六八円

前認定のとおり、原告は、本件事故による受傷の結果前記後遺障害が残り、その程度は自賠法施行令別表等級表一一級相当と認められるところ、右後遺障害に伴う原告の労働能力喪失率は二〇パーセントを下らず(昭和三二年七月二日基発第五五一号労働基準監督局長通牒労働能力喪失率表参照)、またその継続期間は、前記後遺障害の内容に照して、前記症状固定時三二歳の原告につきその後の稼働可能年数と推定し得る六七歳までの三五年間全期間に亘るものと推認される。そうして、前認定のとおり、原告は本件事故前三か月間に合計金七一万七、二三六円の月例給与収入を得ており、また前記甲第一七号証によれば、当時原告は、右給与のほか年間少なくとも金四六万七、八七一円の賞与を受給し得たと認められる(なお右賞与は一二月支給分であつて、このほか毎年六月支給の賞与分のあることも推窺されるが、これについては全く主張立証がないので認定しない)ので、これらを合わせて年間額に引き直すと、合計金三三三万六、八一五円となり、原告は、本件事故当時、年間少なくとも右金額を下らない収入を挙げ得る稼働能力を有していたものと認めることができる。

そこで、前記後遺障害による労働能力の喪失により、原告が前記症状固定後の推定稼働可能年数三五年間に得べかりし収益の喪失額を、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、右症状固定時の現価に引き直してその総額を求めると、次式のとおり合計金一、三二九万一、八六八円(円未満切捨)となる(右金額が原告主張額を上廻ることの問題点については前記休業損害について説示したとおりである)。

3,336,815円×0.2×19.917(ホフマン係数)≒13,291,868円

9  慰謝料 金三〇〇万〇、〇〇〇円

原告が本件事故により受けた前記傷害の程度とその治療経過及びその結果生涯に亘つて残ることとなつた前記後遺障害の内容・程度等を勘案すると、これにより原告が被つた肉体的・精神的苦痛に対する慰謝料額は、右傷害及び後遺障害のそれぞれにつき、いずれも原告主張の各金一五〇万〇、〇〇〇円ずつを下らないものと認めることができる。よつてその合計額は金三〇〇万〇、〇〇〇円となる。

10  物損について

原告は、本件事故により損壊した原告の腕時計及び原告車の買替・修理費用等(合計金四万二、〇〇〇円)についても被告村田に対する損害賠償請求の内に計上するが、原告が本訴において同被告に対し主張する損害賠償の責任原因は、自賠法三条に基づく運行供用者責任に基づくものであるところ、同法条による損害賠償責任の範囲は、事故によつて他人の生命又は身体を害したことによつて生じた損害に限られるので、原告の本訴における同被告に対する右物損に関する賠償請求は、その金額の相当性につき判断するまでもなく失当である。

11  以上、原告に生じた、本件事故による原告の受傷と相当因果関係ある損害の総計額は、前記1ないし9で認定した損害金合計金二、一四五万五、一九一円となる。

六  過失相殺

本件事故及びこれによる損害の発生につき、原告の過失が寄与しており、その結果本件事故により原告に生じた損害の内被告が賠償を負担すべき割合を五〇パーセントと認めるのが相当であることは前認定のとおりであるので、原告に生じた前記損害合計金の内被告が負担すべき賠償額は、その五〇パーセント相当額である金一、〇七二万七、五九五円(円未満切捨)となる。

七  弁済充当

原告が、本件事故による損害賠償金として、被告村田から、自賠責保険金を含め合計金六六九万三、九八二円の弁済を受けていることは当事者間に争いがない。よつてこれを、前示同被告の負担すべき賠償金一、〇七二万七、五九五円から差し引くと、その残額は金四〇三万三、六一三円となる。

八  弁護士費用 金三五万〇、〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告は、本訴の提起及び追行を弁護士である原告訴訟代理人らに委任し、その手数料及び報酬として合計金六〇万〇、〇〇〇円を支払う旨約したことが認められるが、本訴訟の進行経緯並びに前記請求認容額等を考慮すると、その内金三五万〇、〇〇〇円の限度でこれを被告に負担させるのが相当である。

九  結論

よつて、原告の被告村田に対する本訴請求は、前記弁済充当後の損害残金四〇三万三、六一三円と弁護士費用金三五万〇、〇〇〇円の合計金四三八万三、六一三円及び内右損害残金に対する本件事故発生の日の後である訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五五年四月一九日以降、右弁護士費用に対する本判決確定の日の翌日以降各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び被告会社に対する請求についてはこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用し、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 大西秀雄)

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